人工呼吸器装着中は呼吸サポートを受けられ、患者の集中治療や早期回復を目指せます。
一方で、人工呼吸器を装着したことで生じる合併症もあります。
そこでこんな悩みが出てきます。
合併症のポイントを押さえたアセスメントをしたい
合併症予防のために看護にできることを教えて
看護師
観察を怠っていると合併症を発症し、患者の回復を遅らせ、予後を悪化させることになりかねません。
この記事では、合併症の観察や看護師にできる具体的な介入方法を詳しく解説します。
初めて人工呼吸器装着中の患者を見る方でも分かりやすいようにまとめたので、ぜひご覧ください。
目次
【陽圧換気・高濃度酸素投与】人工呼吸器装着による合併症
陽圧換気・高濃度酸素投与による合併症は、以下の3つ。
- 人工呼吸器関連肺損傷(VALI)
- 酸素中毒
- 皮下気腫
人工呼吸器装着が長期化するにつれて呼吸器合併症のリスクも高まります!
呼吸のアセスメントと併せて押さえておきましょう。
合併症①:人工呼吸器関連肺損傷(VALI)
人工呼吸器関連肺損傷(VALI)とは、肺病変で弱った肺胞の過伸展や虚脱の再開通によるストレスで生じる呼吸器関連性の合併症です。
人工呼吸器による強制換気で弱った肺胞にダメージが加わるため生じます。
- 肺コンプライアンスの再評価
- 人工呼吸器の設定の見直し
肺コンプライアンスとは、肺の柔らかさのこと。コンプライアンスが悪いと肺損傷のリスクが高まります。
しりんじ
- Cdyn=1回換気量÷(最高気道内圧−PEEP)
- Cst=1回換気量÷(プラト−内圧−PEEP)
- 正常値:Cdynで30〜80mL/cmH2O、Cstで50〜100mL/cmH2O
人工呼吸器の設定の見直しは「肺保護戦略」に沿って、以下の対策を行います。
- 1回換気量を6mg/kg理想体重以下
- プラトー圧を30cmH2O以下
看護師
しりんじ
肺コンプライアンスまで評価できる看護師は少ないので、周りと一歩差をつけるチャンス!
合併症②:酸素中毒
酸素中毒とは、過剰な酸素投与による気道粘膜や肺胞の損傷、呼吸不全を生じる合併症のこと。
- 酸素の過剰投与を避ける
- 酸素濃度が長期投与されいるなら医師に報告
具体的には、高濃度酸素(ex.FiO2が100%)が投与され続けているなら、投与量を減量できないか医師に相談しましょう。
動脈血酸素分圧を70〜100mmHgになるように酸素濃度を調整します。
出典:日本救急医学会/酸素中毒
合併症③:循環動態の悪化
人工呼吸器は、胸腔内を陰圧から陽圧に変える陽圧換気です。
陽圧換気で胸腔内圧が上昇し静脈還流量が低下すると、血管や肝臓・腎臓など各臓器へ負担が増えます。
静脈還流量の低下により全身の血液が心臓に返ってきにくくなります。
しりんじ
看護師
- 酸素の過剰投与を避ける
- 酸素濃度が長期投与されいるなら医師に報告
呼吸状態だけでなく、心不全にも注意して観察が必要です。
【人工気道編】人工呼吸器装着による合併症
挿管チューブなどの人工気道による合併症は、以下の3つ。
- 人工呼吸器関連性肺炎(VAP)
- 挿管チューブ接触性の障害
では、詳しく解説します。
合併症④:人工呼吸器関連性肺炎(VAP)
人工呼吸器関連性肺炎(VAP)は、気道確保または人工呼吸開始後48時間で発症する肺炎のこと。
挿管チューブなどのデバイスに由来する院内感染の一つで、死亡率や在院日数の増加の原因になります。
しりんじ
- 手指衛生により清潔保持
- 仰臥位の回避
- 人工呼吸器回路を頻回に交換しない
- 過鎮静の予防
- 早期離脱(ウィーニング)
原因菌を患者に侵入させないためにも、まずは手指衛生を徹底しましょう。
しりんじ
呼吸器回路を変えすぎると原因菌の侵入経路を作ることにもなります。
その他、過鎮静は「誤嚥性肺炎」や「ウィーニングの遅延」にもなり、肺炎を発症するリスクを高めるでしょう。
出典:人工呼吸器関連肺炎(VAP) – J-Stage
合併症⑤:挿管チューブ接触性の障害
挿管チューブやカフの接触により気道粘膜へ圧や刺激が加わると、喉頭浮腫や声門浮腫、気道粘膜の損傷になります。
これら合併症は抜管後の気道浮腫の原因にもなるため、予防することが重要です。
- 加湿加温器・人工鼻の装着
- 気道内圧の上昇予防
- 薬剤による予防
挿管チューブの接触部は生理的な加湿機能を失い、気道粘膜の乾燥をや損傷の原因になります。
また気道クリアランスの低下を誘発し、無気肺や喀痰が乾燥することも考えられるでしょう。
看護師
しりんじ
クリアランスが悪くなると、強制換気の圧に負けて気道や粘膜の損傷の原因になります。
看護師
挿管チューブは体にとって異物であると理解しておきましょう。
【安静臥床編】人工呼吸器装着による合併症
人工呼吸器を装着すると長期安静臥床が強いられ、以下の合併症を発症するリスクが高まります。
- 無気肺・荷重側肺障害(DLI)
- イレウス害
- 褥瘡
人工呼吸器装着中でも身体機能を維持し合併症の予防ができるようになりましょう。
合併症⑥:無気肺・荷重側肺障害(DLI)
無気肺や荷重側肺障害(DLI)は、人工呼吸器装着に伴う過度な安静で発症する肺障害のこと。
呼吸機能の低下による排痰困難や機能的残気量の減少が原因です。
体位と機能的残気量の関係は、以下の図解をご覧ください。
出典:看護roo!/人工呼吸器装着患者に対する過度の安静は、なぜ悪いの?
- 過鎮静を避ける(鎮静の見直し)
- 体位変換・ドレナージを積極的に行う
- 早期ウィーニング・離床を促す
挿管管理による苦痛の軽減目的で鎮静薬を投与するのは悪いことではありません。
しかし、過度な鎮静は横隔膜運動や身体機能の低下の原因になります。
横隔膜運動が低下すると換気血流比にムラが出るため、荷重側肺障害(DLI)を発症します。
しりんじ
看護師
合併症⑦:イレウス
安静保持による腸蠕動運動の低下や絶食経過は、イレウスの原因になります。
- 過鎮静を避ける(鎮静の見直し)
- リハビリテーションの介入を検討する
- 早期注入食の開始(疾患にもよる)
- 早期ウィーニング・離床を促す
腸蠕動運動を促すために、できる限り体を動かしましょう。
看護師
他動運動でも構いませんが、鎮静を浅くして自動運動してもらうのが良いでしょう。
しりんじ
また、注入食(白湯からでOK)を始めて腸機能の維持を促すことも要検討!
早期ウィーニング・離床を促しましょう。
「なぜ呼吸器管理が必要になった原因が何か?」を考え、早期解決できるように関わることが重要です。
合併症⑧:褥瘡
長期臥床による安静や栄養状態の低下は褥瘡のリスクを高めます。
疾患の関係で体位が限られている場合を除き、積極的な体位変換と除圧を行いましょう。
- 体位変換による除圧
- マット・環境調整
- リハビリテーションの介入
- 栄養状態の維持・向上
接地面の少ない体位は最低でも2〜4時間に1回は体位変換をして除圧しましょう。
しりんじ
マットやその他環境が患者にとって適正かの評価するとともに、栄養管理ができると完璧!
【精神的ストレス編】人工呼吸器装着による合併症
看護師
実は、人工呼吸器を装着するってすごくストレス!
しりんじ
意思疎通ができず、体動を制限されるため精神的ストレスが大きいです。
挿管中は発語ができず、鎮静薬により意識も朦朧…鎮静により見かけ上は眠っていても、常に心身はストレスに晒されています。
- 不要・過度な鎮静を回避
- 早期ウィーニングや離床
- 鎮痛薬により挿管中の苦痛軽減
- 環境によりストレスが軽減できる環境作り(音楽やアロマなど)
看護師
人工呼吸器により呼吸管理のストレスから解放できるように早期ウィーニングを目指しましょう。
看護師ができる合併症予防【呼吸リハビリテーション】
看護師
しりんじ
24時間、患者をベッドサイドで見ている看護師だからこそ、患者の状態に合わせた呼吸リハビリテーションができます。
ただ観察やアセスメントをするだけではなく、早期ウィーニングを促せるスキルを身につけましょう。
呼吸リハビリテーションとは?
人工呼吸器管理中の呼吸器関連疾患の患者へ、症状悪化の予防や改善・呼吸運動能力やADL・QOLの向上を目的に行うトレーニングのこと。
看護師
具体的な効果は、以下の通り。
- 呼吸機能の低下予防
- 排痰を促す
- 廃用症候群の予防
- 早期離床・ウィーニング
呼吸リハビリテーションは呼吸機能の低下予防だけでなく、患者のQOL向上のためにも重要な役割を担っています。
しりんじ
看護師
呼吸リハビリPTなら「呼吸補筋群のマッサージ」「胸郭可動域訓練」「モビライゼーション」など早期離床に向けた介入をしてくれます。
※モビライゼーションとは、四肢運動や身体活動により離床を目指す運動療法のこと
人工呼吸器装着による合併症を最小限に抑え、早期回復を目指すことができます。
出典:照林社/エキスパートナース(病棟ナースのための人工呼吸器)/2017年11月
種類と内容
代表的な呼吸リハビリテーションは、以下の通り。
- 口すぼめ呼吸・腹式呼吸
- 呼吸介助
- ハフィング(排痰法)
- 体位ドレナージ
呼吸機能の低下予防や排痰を促すドレナージ・ハフィングなどがあります。
しりんじ
排痰機能を維持できると無気肺などの合併症を予防できるだけでなく、早期ウィーニングを目指すこともできます。
看護師
患者の状態に合わせて可能な範囲で積極的にリハビリを進めましょう。
まとめ: 合併症予防なら「ウィーニング」「早期離床」が有効
人工呼吸器装着中の患者には、様々な合併症のリスクがあります。
その一方で看護師の観察や介入1つで予後や患者のADL・OQLを改善することも可能です。
人工呼吸器管理の必要な急性期患者は待ってくれません。
合併症の早期発見や呼吸リハビリテーションによる介入で予防することが重要になります。
看護師
全6回の「看護師のための人工呼吸器講座」をすべて読んでもらえれば、初めて呼吸器患者を見るナースでも安心して看護できます。
分からない時の辞書代わりに使っていただけると幸いです。
しりんじ
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この記事を参考に、人工呼吸器装着中の患者の看護を恐れず積極的に挑戦してみましょう。